第一幕 コルウス襲来 第三場



―――この辺りのはずだ。

駆けながらも周囲を見回し、仲間の気配を探る。


左手の方から戦いの気配がした。

乱暴に地を蹴る足音。

弓矢が風を切り裂く音。

それに獣の吠え声らしきものも聞こえた。

狩人の発煙筒の主もそこにいると考えて間違いないだろう。


エルクが向かうと、森の中では奇妙なほど開けた場所にたどり着いた。先日の謎の災害で木々が倒れた一帯であることにエルクは思い至った。

まだ倒木が転がり、半ばからへし折られた木々が痛々しくあちこちに立ち、災害の跡を生々しく残していた。

そして、


「エルク、こっちだ」


狩人仲間二人の姿が見えた。

二人ともエルクの倍ほどの年齢で、現役の狩人の中でもベテランの域に達していた。

そして、狩人達と対峙するのはエルクのよく知っている魔獣だった。


「グレムベアか!?」


相手の姿を目にし―――

おかしな話だが、エルクは少しほっとしていた。青い体毛のそれは体格だけは熊によく似ていた。


だが、裂けた口や黒い牙、怪しく光る赤い眼光は熊のものとは似ても似つかず、なにより、背中からはまるで何十本という刀剣が突き刺さったような金属質の棘が生えていた。


彼らが自然ならざる者―――

魔獣である証であった。


グレムベア。

冬眠明けの熊よりも獰猛で、怪力を有した四肢はもちろん、背中の棘を矢のように飛ばしてくるのが厄介な相手だ。しかもそれが三体もそろっていた。


魔獣が群れを作ることは珍しく、決して油断のならない状況だ。

しかし、それでもなお、守護の森の狩人にとっては難敵とは言いがたかった。


もっと得体の知れない何かとの遭遇を予感していたエルクにとっては、少々拍子抜けする手合いだった。


―――獣たちが怯えていたのはこいつらが群れていたせいか?


だとすればなんのことはない。守護の森の狩人としての役割を果たすだけだ。

まだ闘いは本格化していないようだ。


グレムベアと対峙していた狩人二人は仲間がそろうまで弓矢で牽制しつつ、うまく魔獣との距離を保っていた。ベテランらしい老獪な立ち回りと言えるだろう。


“エルクは西南の方向に陣取ってくれ”

”分かった”

手のサインだけで素早く狩人たちは意思を伝えあう。


グレムベアの動きをうまく誘導しつつ、

たちまちのうちに自分たちに有利な陣形を築きあげた。

ちょうどこれで三対三。数の上では対等だが、狩人たちはまだ仕掛けない。


「相方はどうした、エルク」

「なに、もうすぐ来るさ。

おっ、噂をすれば……だ」

エルクが来たのと同じ方角からコタも姿を現した。


「わわっ」

「慌てるな、コタ。俺の後ろに回ってかく乱に専念してくれ」

「わ、分かった」


コタは魔獣の姿にやや動揺しているようなので、エルクはハンドサインではなく声で指示を出した。


魔獣を避けて大きく迂回し、エルクの後ろに陣取るコタ。背に負った弓は抜かず、小型の投石器(スリング)を構えた。


「グレムベアか、大物だな!」

「しかも三匹、珍しいわね」


さらにやや遅れ、他の二人の狩人もその場に駆け付けた。夫婦で狩人をしている珍しいペアだ。


年の頃は二十代の半ば。女狩人は部族の中でも数少ないが、彼女の狩猟の腕は男顔負けで、この夫婦が獲物の数で競い合う声は、里のちょっとした名物だった。

二人の声はほんの少し弾んで聞こえた。


魔獣の肉はどれも食用には適さないが、グレムベアの場合、

その頑丈な毛皮は防寒具に、骨と棘は武器に、

そして肝臓は質の良い焚き付けの材料になり、利用価値は高かった。

狩人としては狩り甲斐のある獲物といえた。